有酸素運動

私は日頃からLDLの高い患者様に、脂質が高いのでもっと運動をして下さい、と指導しています。本来ここで“有酸素運動“と言うべきなのですがどうもこれがうまく言えません。何故かというと、実はその、ええと、ちょっと言いにくいのですが、もうこの際はっきり言っちゃいましょう、ただしあくまで個人の意見ですよ、そうです、バカみたいなのです、この言葉のニュアンスが。間抜けすぎて小っ恥ずかしくなるのでございます。一体地球上の誰が酸素の無いところで運動するかっちゅう話です。能書きはいいから兎に角、腕立てでもランニングでもやりゃあいいんです、いつやるか? 今でしょ! などと偉そうな事を言っておきながら私は一切の運動をしておりません。地下駐車場の平日定期券を武器に一日にたかが百歩も歩きません。スポーツドクターなどと洒落込みながらそもそもスポーツ自体をしておりません。仲間との飲み会では学生時代運動部で全国制覇を目指していたなどと武勇伝の如く語りながらそれで満足しております。すでに当時の倍以上歳を食ってしまった・・一体いつの話しとんじゃ。腹が出、ズボンのフックがふっとび、財布の中から数年前に買った区民プールの回数券が9枚も出てきました。たった2回だけ行って2年間の有効期限が切れているのです。自分が余りに情けなくなりました・・自己嫌悪を振り払い、奮起し再び泳ぎ始めることにしました。港区スポーツセンター。とてつもなくおしゃれでびっくり仰天させていただきました。更衣室には老若男がひしめいております。「あいつの身長130センチー、おれのチン長13センチー、ひゃひゃひゃっ」クレしんばりの餓鬼が走り回ってございます、や否や平手打ちをくらいました。白ふんどしの老人でした。担任なのでございましょう。「騒ぐんじゃない。この嘘つきが!」長さが気に食わなかったようにお見受けしました。とにかくここにはなんでもいる、急に気が楽になりました。同時に大迫ハンパないモチベーションが湧いてきました。よおし有酸素運動しまくってやる、まずは片道25m×4泳法×10セット=1kmだ! 1コース。意気込んだものの早速25mで疲れて小休止。するといきなりトンボターンの足が飛んできました。あっぶねえなあ、おちおち休んでもいられません。2コースへ。背泳ぎをしていたところ腹をどつかれました。見るといつのまにやら直角にひん曲がり進路妨害していたようです。誰ともわからず怖くなり水中で「しーましぇん」と謝りながら3コースへ。今度はバタフライで足がつりおまけに息継ぎに失敗して大量に誤嚥しました。げほげほっ、くっくるしい、あと足がいてえ。途中で立ってしまいました。下手くそなバタフライほど危険なものはございません。ぐぇっぐぇっ、これ確実に肺胞まで入ってるし、まじこれ絶対チアノーゼきてるし、肺水腫はもっと苦しいのか、などとぐだぐだ思案していたところ、ニアミスの平泳ぎおじさんにめっちゃ白い目で見られ、あげくに遠くから係員が「大丈夫ですか?」半笑いでございます。恥ずかしくなり水中で「だいじょうぶでしゅ」と言いながら4コースへ。ここは平和でした。とりあえず危なっかしいのでクロールだけにし何度も往復しました。有酸素運動が余分な脂質を燃焼させミトコンドリア内でアセチルCoAを経てATPが生成、同時に無酸素運動が糖質を利用しグリコーゲンから乳酸への解糖またはクレアチンリン酸の分解によりATPが生成されともにエネルギー源なるのだ・・ぶくぶく、ゆうさんそ、はあ、ぶくぶく、むさんそ、はあ、これを念仏のように繰り返しながら無心に泳ぎました。調子に乗ってクイックターンを決めるつもりが足が届かず、水中にいながらにして顔から火が出ました。煮沸現象でございます。息を止めたまま潜水で可及的遠く5コースまで逃げに逃げました。顔を上げると真横をものすごいスピードで泳ぐおじさんがおりました。おじさんは端で休みながらお仲間と話していらっしゃいました。どうやら常連さんのようです。筋骨隆々として格好いい。自分もいつか常連となりあんなふうになりたい! フェルプスに例えてフェルさんと名づけました。無論勝手に。フェルさんの泳ぎはダイナミックです。1ストロークに1回しか足をかきません。ほとんど息継ぎをしません。腕の入水でしぶきひとつ上がりません。か、神っていらっしゃる。必死に真似するも到底追いつけません。まあしょうがない、目的は有酸素運動だ、と言い聞かせ遮二無二泳ぎ続けました。いつしか休憩時間となり全員がプールから上がりました。その刹那我が目を疑いました。そこにはきょっ驚愕の光景がっ!(ここで一旦CM入ります) あのフェルさん、なんとおなかが出ている、出まくりやがっている、まるでビヤ樽だ! すかさずフェルプスから“泳ぎの達者なおっさん”に格下げいたしました。無論勝手に。ふと窓を見るとビルの間から西日がさしておりました。思わず夕陽に向かって叫ばずにはいられませんでした。「ゆうさんそのばかやろ~」無論心の中で。
(それっきりプールには行っていません)

2018年07月12日